株式会社の設立時に種類株式を発行できるようにしたい場合の考え方

会社を設立するときに、将来VCから出資を受けることを想定して種類株式を発行できるようにしたいのですが、どのようにすればよいでしょうか?

 

1.スタートアップから見た種類株式を発行する目的

種類株式とはその名のとおり、普通株式より株式の配当などが優先的に与えられるなど、普通株式にはない権利をつけた株式のことです。

全部で9つの種類の権利があり、それぞれの内容についてはここでは省略しますが、スタートアップが9種類の権利のうち一番目を付けるのは「議決権の制限」です。これは、「株主総会での議決権を種類株主には与えないものとする」ことによって、会社の経営に口出しをさせないようにすることを目的としています。これによって、会社の重要な事項を決めるにあたり、投資家の意向を気にすることなく自由な経営が可能になります。

ですので、会社設立の時点で、最低でも「議決権の制限」を内容として盛り込んだ種類株式を発行できるように定款で定めておきたいと考えるスタートアップの方が時々いらっしゃいます。

2.VCから見た種類株式を発行する目的

一方VCからしてみると、創業者が二度目以降の創業ならまだしも、初めての創業であればその創業者の能力に多かれ少なかれ疑問を抱いています。さらに、投資家の方々から資金を預かってスタートアップに投資をしているわけですから、その投資家達にリターンをきちんと返す必要があります。ですので、創業者の自由にさせた結果、投資に対するリターンを回収できませんでした、ということでは投資家達に対して説明がつきません。

ですので、VCはきっちりと投資したスタートアップに対するモニタリングを行なってきます。たとえば投資契約の内容として、「決算書類の開示」「取締役を1名送り込む」などが盛り込まれますが、その他種類株式による出資を行いその内容として「株主総会の議決権を有する」どころか、「特定の議案については通常の株主総会だけでなく種類株主総会の決議も必要とする」とすることを要求してきます。

もちろん、VCが種類株式で出資を行う理由は他にもありますので、それらを盛り込んだ、種類株式に関する定款の条項をスタートアップに対して提示してきます。

3.設立時に種類株式を発行可能にできるか?

設立時に種類株式を発行可能とすることは当然できます。ただし、その時点で種類株式の内容を定款で確定して登記しなければならず、議決権を制限したいのであればそれを織り込んでおく必要があります。ただし、その種類株式を発行して欲しいと考える投資家は果たしているのでしょうか?前項で見たとおり、VCは自分達に都合のよい種類株式の内容を要求してきます。それを断って自分達が設立時に発行可能と決めた種類株式での発行を要求できるほど発言力のあるスタートアップは残念ながらほとんどないといわざるを得ません。

ですので現実的には、スタートアップの方で都合のよい内容の種類株式を発行可能と定めていても、その種類株式が発行されることはまずありません。
よって、VCに対してその種類株式で出資してもらうという意味では、考えるだけ時間の無駄ということになります。

もっとも、VCから提示された種類株式の内容の意味を理解できるようになるという意味では、会社設立の時点で種類株式について検討することは決して無駄ではありませんので、時間を見つけて勉強されることをお勧めいたします。